実力は世界トップなのに、なぜスタンドはガラガラなのか?
最近、サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」のニュースを見て、なんだか寂しい気持ちになった人も多いんじゃないでしょうか。
アジア競技大会のタイ戦、なでしこジャパンは8-0という圧倒的な大勝でスタートを切りました。シュート数はなんと38対1。文句なしの強さです。しかし、試合が行われたエコパスタジアム(静岡県)の客席を見渡すと、言葉を失うような光景が広がっていました。キャパシティ約5万人という巨大なスタジアムに、集まった観客はわずか「1202人」。しかも、テレビの地上波中継すらなく、有料の配信サービスをわざわざ契約した人しか見られないという、あまりにも寂しい状況だったのです。
「日本開催なのに、この客入りは悲しすぎる……」
「民放で放送がないなんて、昔じゃ考えられへんかった」
ネット上ではファンの嘆きの声があふれています。でも、ここで一つ大きな疑問が湧いてきませんか?
今のなでしこジャパンの選手たちは、ぶっちゃけ2011年の頃よりも技術的には遥かにレベルアップしています。世界最高峰の海外リーグでバチバチにレギュラーを張っている選手だらけです。それなのに、なぜこれほどまでにお茶の間から忘れ去られ、スタジアムにお客さんが入らないのか。
単に「テレビが放送しないから」「ネット配信の時代だから」という理由だけで片付けていい問題なのでしょうか?
実はそこには、昔のなでしこや、プロ野球のレジェンド・長嶋茂雄さんが持っていた「ファンを惹きつける泥臭いエンタメ精神(ネタ要素)」と、今の選手たちの「優等生すぎるプロ意識」の決定的な違いが隠されているのです。
「あの時(2011年)」のなでしこは、なぜあそこまで熱狂を生んだのか?
今から15年前の2011年、日本中が「なでしこブーム」という空前の社会現象に沸き立ちました。あの時の熱気は、今思い出しても鳥肌が立つほどです。なぜ、サッカーに興味がなかったおじいちゃんやおばあちゃん、学校の女子高生までが、こぞってなでしこジャパンを応援したのでしょうか。
それは、彼女たちがただ「世界一になったから」ではありません。チーム全員が、漫画のキャラクター以上に強烈な「キャラ立ち」の宝庫だったからです。
まず、絶対的リーダーだったキャプテンの澤穂希さん。「苦しい時は私の背中を見ろ」という名言に代表されるように、ピッチに立つだけで敵を威圧し、味方を鼓舞する圧倒的な「男前キャラ」でした。誰が見ても一発で「この人が大ボスだ」とわかるアイコンです。
さらに、今やバラエティの女王となっている丸山桂里奈さん。当時からぶっ飛んだ天然キャラで有名でしたが、ドイツ戦で劇的な決勝ゴールを決めるという「ここ一番で神がかるスーパーサブ」としての見事なネタ(見せ場)を持っていました。
他にも、試合中におしゃれなヘアピンやネイルにこだわる姿が女子中高生のトレンドになった川澄奈穂美さん、PK戦でドスの効いたにらみを利かせてゴールを守った強面の守護神・海堀あゆみさん……。
サッカーのルールをよく知らない人から見ても、「顔と名前と性格が一致する」という、まるで戦隊ヒーローかアイドルグループのような抜群のバランスの良さがありました。一歩スタジアムを出たあとのトークやリアクションに、視聴者が親近感を持てる「ネタ」が満載だったのです。
あの時代、彼女たちはどんな「崖っぷち」を生き、どんなチームだったのか?
ここで少し、2011年前後という「あの時代」がどういうものだったのか、そして当時のなでしこジャパンがどれほど過酷な環境に置かれていたのかを振り返ってみましょう。ここを知ると、当時のブームの本質がさらに見えてきます。
まず、時代背景として絶対に外せないのが「東日本大震災」です。2011年3月、日本は未曾有の大災害に襲われ、国全体が深い悲しみと先の見えない不安、重苦しい自粛ムードに包まれていました。日本中が元気を失っていた、まさにそのわずか数ヶ月後に、女子ワールドカップが開催されたのです。
当時のなでしこジャパンのチーム事情は、現在の恵まれた環境とは文字通り「天と地」ほどの差がありました。
当時は女子サッカーのプロリーグなんて存在しません。選手たちの多くは、昼間は「スーパーのレジ打ち」や「工場の梱包作業」「企業の事務職」として普通に働き、夕方から泥だらけになって練習に励むという生活を送っていました。遠征に行くにも予算がなく、飛行機はエコノミークラスが当たり前。自分たちで洗濯をし、経済的にもギリギリの状態でサッカーを続けていたのです。
そんな「普通の苦労人のお姉ちゃんたち」が、体格も資金力も圧倒的に上の世界最高峰の巨人・アメリカ代表に立ち向かっていく。そして、延長後半の土壇場で、澤選手が執念の同点ボレーシュートを決め、最後はPK戦で奇跡の優勝を果たす――。
このバックストーリー自体が、震災で傷ついていた日本人の心に猛烈に刺さりました。小柄な日本選手たちが、大男のような海外選手に組織力と「絶対に諦めない精神」で立ち向かっていく姿は、単なるスポーツの枠を超えて「日本復興のシンボル」になったのです。
「彼女たちがこんなに頑張っているんだから、私たちも負けていられない」
お茶の間がそうやって感情移入せざるを得ない「ドラマ」が、あの時代、あのチームには必然的に備わっていました。
長嶋茂雄の「ジャンピングキャッチ」に学ぶプロ意識
ここで一つ、プロスポーツにおける「魅せる」ということの本質について考えてみたいと思います。
日本のプロ野球界の偉大なるレジェンド、ミスターこと長嶋茂雄さんには、あまりにも有名な伝説があります。それは、「ただの正面の平凡なフライを、わざわざ派手にジャンピングキャッチして、大ファインプレーに見せて観客を沸かせていた」というエピソードです。
野球の技術的な正解だけで言えば、普通に走って行って、胸のあたりでサッと捕球するのが一番確実で安全です。しかし、長嶋さんはそれをしなかった。なぜか。
「プロはお客さんを楽しませて、ハラハラさせて、感動させてナンボ。絵にならなきゃプロじゃない」という、強烈なエンターテイナーとしてのプロ意識を持っていたからです。
プロの世界でお金をもらう以上、ただ試合に勝てばいいわけじゃない。球場に足を運んでくれた人、テレビの前で応援してくれている人に「うわあ!」「すごい!」と言わせる『ネタ(見せ場)』を提供することこそが、プロとしての最大の仕事であると、長嶋さんは身をもって示していたのです。
実は、2011年のなでしこジャパンのメンバーにも、本に書かれるような計算されたビジネスではないにしろ、まさにこの「長嶋茂雄的なプロ根性」がピッチの内外に溢れていました。
アメリカ戦の延長後半、普通の選手なら足が届かないような諦めるボールに、澤穂希選手が体を投げ出して執念で触り、ゴールにねじ込んだあの同点ボレー。あれこそ、観ている人の感情を限界まで揺さぶる、最高に絵になる「大ファインプレー」でした。
彼女たちには、女子サッカーというマイナースポーツを「なんとかして知ってもらいたい」「自分たちでお客さんを呼び込みたい」という、飢えたような泥臭いプロ根性があったのです。
今の選手は「上手すぎて、完璧すぎて、ネタがない」
これに対して、今のなでしこジャパンの選手たちはどうでしょうか。
一言で言うと、彼女たちは「最初から完成された、洗練されたアスリート」なんです。
今の主力選手たちは、幼少期からJリーグの育成組織などの素晴らしい環境で英才教育を受け、10代や20代前半でイギリス(マンチェスター・シティなど)やイタリア(ASローマなど)といった世界の超名門プロクラブに引き抜かれていくようなエリートばかりです。ぶっちゃけ、サッカーの技術や戦術眼は、2011年の頃よりも遥かに高くなっています。
しかし、ここが最大のジレンマなのですが、普通に上手すぎて、完璧すぎて、お茶の間が食いつくような「ネタ(ドラマ)」が起きにくいのです。
長嶋茂雄さんのように、わざわざピンチを演出して魅せる必要すらないほど、彼女たちは淡々と、スマートに、高いレベルで完璧なプレーをこなしてしまいます。試合後のインタビューでも非の打ち所がないしっかりとした優等生なコメントを残し、私生活もおしゃれで格好いい。
でも、お茶の間からすると「すごいね」とはなっても、「この子たちを私らが応援してあげなきゃ!」という感情の引っかかり、つまり応援するための『ネタ』が見当たらないのです。
プロはお客さんを楽しませるのが仕事。今のなでしこジャパンを見ていると、どうしても「競技としてのサッカー」を極めるアスリートとしてのプロ意識ばかりが目立ち、「ファンを楽しませる、世間を巻き込む」というエンターテイナーとしてのプロ意識がお茶の間を向いていないように見えてしまいます。「上手いのは分かったから、もっとこっちを向いて楽しませてくれよ」というのが、ライト層の本音ではないでしょうか。
テレビ地上波からネット配信へ移行し、ただでさえファンの目に触れにくくなった現代だからこそ、かつてのメンバーのような「ギラギラした個性」や「ツッコミどころのあるキャラクター」というフックがなければ、コアなサッカーファンだけの閉じた世界になってしまうのは当然の結末と言えます。
【まとめ】あなたが一番熱狂した「なでしこの思い出」は?
ただサッカーが上手いだけの優等生よりも、ハラハラさせて、最後にとんでもないドラマを見せてくれる破天荒なスターの方が、やっぱり日本中を巻き込む大ブームを起こしやすいというのは、エンタメの歴史が証明しています。
今のなでしこジャパンがもう一度スタジアムを満員にするためには、世界基準のスマートなサッカーだけでなく、かつての先輩たちが持っていたような、泥臭く泥をはね散らかしてでも「お茶の間を巻き込んでやる!」というエンタメとしてのプロ根性が必要なのかもしれません。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
最後に、ブログを読んでくださった皆さんの意見や思い出をぜひコメントで教えてください!
- 2011年の「なでしこブーム」の時、あなたが一番印象に残っているシーンや、大好きだった選手は誰ですか?
- 今のなでしこジャパンがまた世間で話題になるためには、どんな「仕掛け」や「キャラ」が必要だと思いますか?
「私はあの時、夜中にテレビの前で大号泣しました!」「今の選手もSNSはおもしろいよ!」など、どんな些細なことでも構いません。当時の熱い思い出や、今の女子サッカーに対するあなたの本音を、ぜひ下のコメント欄で聞かせてくださいね!

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